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新潟地方裁判所 昭和56年(ワ)155号 判決

原告

橋本留吉

外二〇名

右原告ら訴訟代理人

足立定夫

昧岡申宰

工藤和雄

高橋勝

被告

平沢フジ

右訴訟代理人

坂井煕一

石井恒

斉木悦男

被告

歌代浩

右訴訟代理人

村山六郎

主文

一  被告らは、各自、

1  原告橋本留吉に対し、金七六八万九三六三円、

2  原告橋本ミテに対し、金七六八万九三六三円、

3  原告廣川ツルに対し、金一一五三万四〇四四円、

4  原告廣川登に対し、金一九一万七三四〇円、

5  原告廣川新次に対し、金一九一万七三四〇円、

6  原告織田貞次郎に対し、金一二五〇万一八〇〇円、

7  原告中島貞子に対し、金八三四万四八二六円、

8  原告中島裕子に対し、金五五六万六五五一円、

9  原告中島以津子に対し、金五五六万六五五一円、

10  原告中島一に対し、金五五六万六五五一円、

11  原告松井信吾に対し、金一六五〇万円、

12  原告長谷川キノイに対し、金八二五万円、

13  原告和田庄吾に対し、金一三七八万五五一二円、

14  原告和田チヨノに対し、金一三七八万五五一二円、

15  原告佐々木又雄に対し、金五九六万〇〇六七円、

16  原告佐々木ヤス子に対し、金五九六万〇〇六七円、

17  原告畠山久平に対し、金八八二万六三六一円、

18  原告畠山ミヨシに対し、金三八九万二八一一円、

19  原告柴田崇に対し、金二七六一万七〇四三円、

20  原告上野仁に対し、金二八八二万八七七八円

と右各金員に対する昭和五三年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告松井信吾、同長谷川キノイ、同織田トミを除くその余の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  原告織田トミの請求を棄却する。

四  訴訟費用中、原告織田トミを除くその余の原告らと被告らとの間に生じた分は被告らの負担とし、原告織田トミと被告らとの間に生じた分は原告織田トミの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

(当事者の求めた裁判)

第一  請求の趣旨

一  被告らは、別紙請求債権目録記載の原告らに対し、各自、同目録記載の金員及びこれに対する昭和五三年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

(当事者の主張)

第一  請求原因

一  当事者

1 原告ら

原告らは、昭和五三年三月一〇日午前〇時九分ころ、新潟市古町通九番町一四六七番地所在の通称「今町会館ビル」(以下「本件ビル」という。)で発生した火災により死亡した別紙請求債権目録記載の被害者らの各遺族でその続柄は同目録に記載のとおりである。

2 被告平沢フジ

被告平沢フジ(以下「被告平沢」という。)は、本件ビルを所有し、本件ビルの三階を建築当時から同人の住宅として使用し、本件ビルの一・二階部分を株式会社新潟パーテーサービス(以下「パーテーサービス」という。)に一括して賃貸しているものである。

3 被告歌代浩

被告歌代浩(以下「被告歌代」という。)は、本件ビルの二階の一部(以下「本件店舗部分」という。)をパーテーサービスを通して被告平沢から賃借して、ラテンパブスナック「エルアドロ」(以下「エルアドロ」という。)の名称でスナックを経営していたものである。

二  本件ビル火災の発生

1 本件ビルの概要

本件ビルは、昭和四一年九月一三日に店舗併用住宅として建築確認をうけて建築されたもので、昭和五三年三月当時の構造は鉄骨造、地上三階建、延面積341.90平方メートルであり、一階はバー三軒、スナック二軒、割烹一軒の計六軒が、二階はエルアドロほか一軒のスナックが使用し、三階は被告平沢の居住用に使用されていた。

2 本件火災事故の発生

昭和五三年三月一〇日午前〇時九分ころ本件ビル二階のエルアドロの入口天井付近から火災が発生し(以下「本件火災」という。)、営業中のエルアドロ内にいた別紙請求債権目録に記載の被害者らを含む一一名の客と従業員が死亡した。

三  被告らの責任原因

(被告平沢の責任原因)

1  民法七〇九条に基づく責任

被告平沢には、次のような重大な過失の競合により民法七〇九条に基づく不法行為責任がある。

(一)  防火避難上必要な構造・設備の維持、管理義務違反の重大な過失

ビル所有者には、予想される出火場所、出火態様に対応できるように避難防火上必要なビル全体にわたる構造設備の維持管理を行い、出火した場合には適切な避難誘導ができるようにしてビル内の人の生命身体の安全を確保しなければならない注意義務がある。特に本件ビルのようにその構造、設備など知らぬ不特定多数の酔客が出入りするスナック、バー等に使用される飲食店雑居ビルの場合にはより高度の注意義務が要求される。ところが被告平沢はこれを怠り、本件ビルの建設計画時から一、二階をスナック、バー等の飲食店雑居ビルとして使用する目的を持ちながら、本件ビルの二階には有効幅員1.1メートルの狭い昇降階段をただ一つ設置しただけで、非常口・非常階段を設置せず、男子用トイレにある横六三センチメートル、縦七七センチメートル、有効開口横六〇センチメートル、縦二五センチメートルのトイレの換気機能しか有しない出窓が一か所のみという無窓階として本件ビルを建築し、またエルアドロの唯一の出入口である昇降階段口における長さ五メートル、幅0.7メートルないし0.9メートル、天井高二メートルのドーム型S字トンネルの通路の設置や床面にパンチングカーペットを敷き、壁体及び天井をハイパイルの仕上げ布で覆う等可燃性で有毒ガスを発生させる内装の使用を容認し、火災等有事の際脱出が極めて困難な状況のまま放置した重大な過失がある。

(二)  防火管理者を選任し、防火業務を行わせる義務違反の重大な過失

本件ビルは、消防法施行令別表一(二)、同別表一(三)に定めるキャバレー、ナイトクラブその他これに類する店及び料理店などに使用され、かつ出入りし勤務し又は居住する者の数が三〇人以上であるから、消防法八条一項の防火対象物であつて、被告平沢は本件ビルの所有者としてビル全体の防火管理者を定め、消防計画の作成、当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施、消防の用に供する設備、消防用水又は消防活動上必要な施設の点検及び整備、火気の使用又は取扱いに関する監督、避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理並びに収容人員の管理その他防火管理上必要な業務を行わせるべき注意義務がある。ところが被告平沢は、これを怠り、防火管理者を選任せず、防火管理上必要な業務を全く行わせず、以て出火後適切な避難誘導、消火、火災発生の通知がなされなかつた点に重大な過失がある。

(三)  消防設備等の設置、検査、点検義務違反の重大な過失

被告平沢は、本件ビルの所有者でかつビル全体の管理者として、消防法一七条一項により避難器具を設置し(同法施行令二五条一項三号、別表一(二)、(三))、避難誘導灯、通路誘導灯、誘導標識を設置したうえで(同法施行令二六条一項一号、二号、四号、別表第一(二)、(三))、本件ビルを使用し又は使用させるべき注意義務がある。ところが被告平沢はこれを怠り避難器具並びに避難誘導灯、通路誘導灯及び誘導標識を設置せず、出火後被害者らに避難場所・方法を判らせず混乱させて避難を困難ならしめた点に重大な過失がある。

なお、失火の責任に関する法律(以下「失火責任法」という。)は、失火原因についてのみ適用されるものであり、出火後の適切な避難誘導を怠つたり、避難防火上必要な構造設備の維持管理を怠つた等の出火後の災害発生防止義務違反には同法の適用の余地はないと解すべきである。

2  民法七一七条に基づく責任

被告平沢は、次のとおり本件ビルの設置又は保存の瑕疵により民法七一七条に基づく工作物責任がある。

(一)  本件ビルの二階部分には、前記1(一)のとおり唯一の狭い昇降階段があるのみで、非常口・非常階段が設置されておらず、かつ無窓階となつており、本件火災に際して被害者が出口を探し求めて逃げまわつたことからも明らかな如く、避難上重大な致命的な構造上の瑕疵を有していた。

被告平沢は、ビル所有者として、右瑕疵が本件ビルの外部構造に関するもので、ビル全体の観点から修補すべきものであるから、右瑕疵ある工作物を事実上管理支配する者ないしは被害者との関係で管理支配すべき地位にある者すなわち占有者にあたる。仮にそうでないとしても、右瑕疵は、本件ビルの二階部分の占有者及び所有者双方に関わるものである。

(二)  本件ビル二階において、前記1(一)のとおりエルアドロの唯一の出入口付近にはS字トンネルの通路が設置され、床面には可燃性でかつ有毒ガスの発生する材料が使用されているのは、有効な排煙設備を設置されていないことと相まつて、避難の妨げとなる工作物の設置・保存上の瑕疵にあたる。

右S字トンネルの設置等は、賃貸借契約上ないし防火防災上危険なものとして改装改造するにあたつては賃貸人たる被告平沢の承諾を要し、反面被告平沢には、被害者との関係でS字トンネル等を設置させず又は設置したものを修補すべき義務があり管理支配すべき地位にあるから占有者にあたる。

(被告歌代の責任原因)

1  民法七〇九条に基づく責任

被告歌代は、本件ビルの二階の本件店舗部分を賃借し、エルアドロを経営している。およそスナックは、ビルの構造をよく知らぬ不特定多数の客が来て飲酒・飲食をし、これに応じた従業員が仕事に従事しており、エルアドロの場合は、狭い階段が唯一の出入口である二階で営業しているのであるから、万一の火災発生の場合に備え、防火責任者を選任し、平素から消火・通報・避難計画を立て、S字トンネルや床面、天井、壁体に可燃性で有毒ガスの発生する内装など防火避難上支障を生じるおそれのある構造設備の改善をし、安全かつ迅速に避難できるように維持管理すべきであり、また従業員に対し指導訓練を行い、客に対しては避難場所・方法を明示するとともに、火災が発生した場合には自ら又は従業員をしてすみやかに適切な避難誘導ができるようにしなければならない高度の注意義務がある。ところが、被告歌代は、これを怠り、防火責任者を選任せず、消火・通報・避難計画も立てず、非常口、非常階段、避難口誘導灯、誘導標識が全くないところにさらに唯一の出入口に設置されたS字トンネルを撤去せず、また危険な内装のまま放置し、さらに従業員に対し避難誘導等の指導・訓練を全く行わないまま漫然と営業を続けてきた重大な過失がある。

したがつて、被告歌代は、民法七〇九条に基づく不法行為責任がある。

2  民法七一五条に基づく責任

被告歌代は、本件火災当時佐藤孝をエルアドロの支配人として雇傭していたが、右佐藤は、従業員の亡畠山春久から本件火災の発生を知らされたのであるから、客に対し、直ちに火災の発生を知らせて避難させ、消防署に火災発生を通報し、備えつけてある消火器等を用いて消火すべき義務があるのにこれを怠り、隣のスナック「ゴールデンアーム」に行き、エルアドロの出入口のドアを椅子で押えて開き、水をもらつてかけ、向いの割烹「やひこ」からも水をもらつて、エルアドロの出入口付近に水をかけたにすぎず、適切な避難誘導、通報、消火措置をとらなかつた点に重大な過失がある。

したがつて、被告歌代は、佐藤孝の使用者として民法七一五条に基づく不法行為責任がある。

3  民法七一七条に基づく責任

前記のとおりS字トンネルの存在及び危険な内装材の使用等は工作物の設置・保存の瑕疵にあたるところ、被告歌代は、エルアドロの経営者としてS字トンネル等を使用していたのであるから、これを事実上管理支配していた者であつて、占有者である。

したがつて、被告歌代は、占有者として民法七一七条に基づく工作物責任がある。〈以下、省略〉

理由

一本件火災事故の概要と出火原因

被告平沢が本件ビルを所有し、その一、二階をパーテーサービスに一括賃貸して使用させていたこと、本件ビルは昭和四一年九月一三日店舗併用住宅として建築確認をうけた上で建築され、昭和五三年三月当時の構造が鉄骨造地上三階建、延面積341.90平方メートルであつたこと、本件ビルの一階をバー三軒、スナック二軒、割烹一軒の計六軒が、二階をエルアドロほか一軒のスナックが使用していたところ、昭和五三年三月一〇日午前〇時九分ころ本件ビル二階のエルアドロの入口天井付近から本件火災が発生し、営業中のエルアドロ内に客又は従業員としていた亡橋本フサエ、亡織田一男、亡中島利雄、亡松井ヨシ子、亡和田吉弘、亡佐々木恵一、亡畠山春久、亡柴田恵美子、亡上野知恵子を含む計一一名が同日本件火災によつて死亡したこと(被告平沢との関係では、亡柴田恵美子が本件火災によつて死亡したことは〈証拠〉によつて認められる。)はいずれも当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実に、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる

1  被告歌代は、本件事故当時本件ビル二階の本件店舗部分において、パブスナックであるエルアドロを経営していたが、本件店舗部分の床面積は約七八平方メートルであつて、その出入口は南側昇降階段に通じる一か所のみであり、その窓は北側奥のトイレに東向きの幅約六三センチメートル、高さ約七七センチメートルの押窓と出入口近くに西向きの幅約一六〇センチメートル、高さ約九〇センチメートルの窓の二つであつた。

2  エルアドロ内は、調理場と客席と長さ約五メートルに及ぶ出入口通路部分とに間仕切りによつて分けられ、右出入口通路部分には長さ約五メートル、高さ約二メートル、幅約0.79ないし0.9メートルのベニヤ板と内装材で作られたドーム型のS字トンネルが設置され、前記の出入口近くの西向きの窓はこのS字トンネルによつて塞がれており、また右S字トンネル及びエルアドロの客席の内装には床面にパンチングカーペットが敷かれ、壁体及び天井にはハイパインの仕上げ布地が施され、可燃性の化繊の内装材が使用されていた。

3  本件火災は、昭和五三年三月一〇日午前〇時九分ころ、出入口近くのS字トンネル天井付近から電気的要因により出火したが、本件火災に最初に気付いたエルアドロの従業員亡畠山春久は、「チーフ、火」と二回ほど言つてエルアドロの店長佐藤孝に火災の発生を知らせた。佐藤は、調理場からの出火と思い、調理場の方を見たが、火の気がなかつたことから、外に出てみようとS字トンネルの所へ行くと出入口の天井付近から座布団一枚位の広さで出火しているのを発見したが、火勢はたいしたことがなかつたので、一人で火を消そうとS字トンネルを通り抜けて外に出て、本件ビルの同じく二階にあるスナック「ゴールデンアーム」に行き、椅子でエルアドロ出入口の扉を開いて、これで固定して、小さな器に水をもらつて出火部分にかけ、つぎに一階に降りて道路の向い側の割烹「やひこ」に飛び込み一一九番通報を頼むとともに、四、五回ボールやバケツに水をもらい本件ビル二階のエルアドロの出入口まで戻り火に水をかけて消火しようとしたが、エルアドロ内にいた客や従業員に対しては火災の発生を知らせたり、避難誘導の措置をとらなかつた。また、エルアドロ内にいた他の従業員は消火活動をしたり、客に対し火災発生を知らせたり、避難誘導を行わなかつた。

4  本件火災発生当時エルアドロ内には二〇数人の客及び従業員がいたが、右佐藤が割烹「やひこ」から水をもらつてエルアドロの出火場所に水を掛けている間に、エルアドロ内の客らのうち、本件火災の発生を知つた数人がS字トンネルを潜り抜けて出入口から避難したが、他の多くの客や従業員が本件火災発生に気付いたときには、既に唯一の出入口であるS字トンネルの部分は火に包まれ、亡橋本フサエほか一〇人は逃げ場を失つて可燃性の内装材等から発生する有毒ガスにより中毒死した。

以上の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二被告平沢の責任について

〈証拠〉を総合すれば、被告平沢は、昭和三九年の新潟地震で従前居住していた家屋に損傷を受けたことから本件ビルの建築を思い立ち、三階部分を自己の居住用とし、一、二階を貸店舗として当時設立予定のパーテーサービスに一括賃貸する予定のもとに本件ビルの建築を計画したこと、被告平沢は、本件ビルの建築にあたり、五十嵐設計事務所に設計を依頼したが、借主となる予定のパーテーサービスの意見を取り入れ、二階部分は借主側が内装工事を行うということでトイレ部分のほかは外壁と窓の戸だけを造り、また窓も内装でつぶされることになり建築確認上も支障がないということで前記のとおりの窓を二か所のみとして設計され、建築確認をうけた上で、昭和四一年八月三和建設株式会社に請負代金一一〇〇万円で本件ビル建築を請負わせ、同年九月に同ビルの建築工事が着工され同年一二月末ころ完成し、被告平沢はこれを所有するに至つたこと、被告平沢は、本件ビルの設計、建築当初から一、二階はクラブ、スナックその他飲食店に使用されることを知つていたこと、被告平沢は、パーテーサービスに対し、昭和四一年一一月ころ本件ビルの一、二階を賃貸する契約を締結したが、右賃貸借契約では借主のパーテーサービスは転貸を自由にすることができ、かつ借主は建物内部の改装を自由に行えるとするものであつたこと、被告平沢は、本件ビルの完成後その三階に入居してここに居住し、本件ビルの上・下水道料、ガス料金を一括して支払つていたので、一、二階の各店舗から参考メーターに基づきガス料金を徴収していたこと、一、二階の一括賃借を受けたパーテーサービスは一階を他に転貸するとともに二階は当初自らクラブ「愛染」を経営していたが、昭和四二年一二月ころこれも止め二階も他に転貸するに至つたこと、被告平沢は、昭和五二年九月ころ新潟市青山の住所地に自宅を新築して転居しこれ以後本件ビルの三階は空屋となり、ガス料金の支払は一、二階の各店舗ごとに行い、上・下水道料はその他の費用と合わせて管理費としてパーテーサービスが各店舗から毎月五〇〇〇円を徴収したなかから支払つていたこと、以上の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そこで、右認定事実及び前記一の認定事実に基づき、被告平沢の責任について検討する。本件ビル二階にある本件店舗部分は、設計・建築当初からクラブ、スナックやその他の飲食店として使用が予定され、また現に使用されていたものであるが、このような用途に使用される建物の二階以上の階の安全性としては、右店舗内での火災等の発生という内部にいる人の生命身体に危険を及ぼすような状態が生じたときに備えて外部に避難することができるようにするために、外部への避難に際し容易に接近でき、かつ避難可能な開口部(非常口、非常階段、窓等)を一か所の出入口とは別に設置することが要求されるというべきである。しかるに、本件店舗部分は、通常の出入口のほかに、開口部としては北側奥のトイレの押窓と出入口近くの西向きの窓の二か所のみが設置されていたにすぎないものであるが、右のトイレの押窓はその大きさから外部への避難については充分な機能をもたず、また西向きの窓も出入口に近かすぎるため危急時の避難にあたつては出入口とは別個に避難口としての機能を果すものではないといわざるをえない。したがつて、本件ビル二階の本件店舗部分は、その用途も考慮すれば、出入口のほかに有効に避難できる開口部を欠く危険な構造物というべく、設置・保存上通常有すべき安全性を欠き「瑕疵」があるというべきである。

そして右瑕疵のために本件各被害者らが逃げ場を失い死亡したことは前記一4の認定事実からして明らかである。

また右瑕疵は、本件店舗部分のみについて存在するものではなく、窓等の開口部の設置というビルの外部構造にも関わるものであり、このようなビルの外部構造に関しては、ビル内部を他に賃貸していても、なおビル所有者である被告平沢がこれを事実上管理支配し、そこに瑕疵があればこれを修補しえて損害の発生を防止しうる関係にあり、民法七一七条の「占有者」に該当するといわざるをえない。

なお、民法七一七条に基づく損害賠償責任はいわゆる危険責任ないし報償責任に基づくものであるから、失火責任法の立法趣旨を考慮しても延焼した部分についてならともかくとして、本件のような場合には失火責任法の適用の余地はないものと解するのが相当である。また、亡畠山春久及び亡佐々木恵一は、エルアドロの従業員で本件店舗部分の占有補助者にすぎないから、民法七一七条の「占有者」とはいえず、同条の「他人」ないし「被害者」に該当する者と解される。

したがつて、被告平沢は、本件各被害者らの死亡について民法七一七条の工作物責任を負うというべきである。

三被告歌代の責任について

本件店舗部分は、パブスナックとして前記一2の認定事実のとおりの施設構造を有するものであるところ、かかる施設構造は本件ビルの一室内に設置されているのであるから、民法七一七条一項の土地の工作物に該当するものと解される。

そして前記一1の認定によれば、パブスナックとして使用される本件店舗部分において外部に通じる箇所としては、昇降階段に通じる出入口、北側奥のトイレの押窓及び出入口近くの西向きの窓のみであつたと認められるから、右の出入口からの避難を充分確保するとともに、不燃性の材料を使用する等して、万一の火災発生に備えることが本件店舗部分内部の安全性として要求される。しかるに、右出入口には調理場との間に間仕切りが設けられて長さ約五メートルに及ぶ出入口通路が形成されて、ここにベニヤ板と可燃性の内装材で作られたS字トンネルが設置され、これによつて西向きの窓が塞がれ、さらに客席内には床面、壁、天井に可燃性の化繊の内装材が使用されていたものであるから、本件店舗の内部から営業時間中に火災がひとたび発生したときには炎及び大量の煙が発生して急速に室内に充満し、パブスナックであるエルアドロ内にいる多数の酔客や従業員がS字トンネルの設置された出入口通路部分に殺到して混乱し、またS字トンネル自体から出火した場合には逃げ場を失う危険性がきわめて大きかつたものというべきである。したがつて、本件店舗部分における長さ五メートルに及ぶ出入口通路における右のようなS字トンネルの設置及び客席における可燃性の内装材の使用は設置・保存上の「瑕疵」に該当するといわざるをえない。

また、右瑕疵のために本件の各被害者らが逃げ場を失い死亡したことは前記一4の認定事実からして明らかである。

ところで、〈証拠〉によれば、S字トンネルの設置や可燃性材料を使用した内装工事は、本件店舗部分の転借人白井悦男から再転借した安田光昭が昭和五二年三月ころに行つたものであると認めることができるが、被告歌代は、白井悦男から昭和五二年五月一五日本件店舗部分を敷金七五万円、賃料月二五万円で再転借を受けるとともに、前再転借人の安田光昭から右S字トンネル等の内装を六五〇万円で買受け、以後本件店舗部分でエルアドロを経営し、以てS字トンネル等の内装を使用し占有してきたことが認められるから、被告歌代がS字トンネル等の内装を含む本件店舗部分の「占有者」というべきである。

なお、民法七一七条の工作物責任と失火責任法との適用関係については前記二に述べたとおりである。

したがつて、被告歌代は本件各被害者らの死亡について民法七一七条の工作物責任を負うというべきである。

四被告らの各責任関係

以上の二及び三の被告らの各不法行為が競合して本件の各被害者らを死亡させたことは、前記一ないし三から明らかであつて、これらは共同不法行為というべきである。

五損害

1  逸失利益

(一)  亡橋本フサエ

〈証拠〉によれば、亡橋本フサエは、昭和二八年三月一九日生で、本件事故による死亡当時はクラブ真珠苑にホステスとして勤務する満二四歳の健康な女子であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの四三年間は稼働しえたものと推認される。そして〈証拠〉によれば、亡フサエが真珠苑から支給されていた給料(差引支給額)は昭和五二年九月が二二万八五五六円、昭和五三年一月が二一万一二一三円、同年二月が二六万〇七四七円であることが認められるので(被告歌代との関係では亡フサエがホステスとして勤務し、右の月収金額を得ていたことは当事者間に争いがない。)、本件事故による死亡当時年間二八〇万二〇六三円の収入を得ていたものと推認されるが、このような高収入を得るためにはホステスという職業柄、衣裳代や化粧代等の必要経費として収入の三割程度の支出を要することは顕著な事実であるからこれを控除した年間の純収入は一九六万一四四四円であると認められる。そしてホステスという職業はその特殊性からして一般に稼働可能期間は短かく満四〇歳までこの職を継続しえてその間本件事故前と同水準の収入をあげることができ、その後満四一歳から満六七歳までの二七年間は当裁判所に顕著な昭和五二年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額(含臨時給与)を1.059倍したものをもとに作成した満四一歳の女子労働者平均給与額(平均月額)一三万六一〇〇円の収入を得ることができたものと推認され、これらを基礎として右各稼働可能期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、年五分の中間利息の控除につきホフマン方式を用いて死亡当時における亡フサエの逸失利益の現価額を算定すれば、次のとおり二〇三五万七四五三円となる。

(算式)

40歳まで

年間純収入=(22万8556円

+21万1213円+26万0747円)

×4×(1−0.3)=196万1444円

逸失利益=196万14444円×(1−0.5)×11.536

=1131万3608円

41歳から67歳までの逸失利益

13万6100円×12×(1−0.5)

×(22.611−11.536)=904万3845円

(二)亡織田一男

〈証拠〉によれば、亡織田一男は、昭和一二年四月二〇日生まれで、本件事故による死亡当時は若杉組に土木作業員として勤務する満四〇歳の健康な男子であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの二七年間は稼働しえたものと推認される。そして〈証拠〉によれば、亡一男は本件事故当時若杉組から月額一五万円の収入を得ていたものと認められ、これを基礎として右稼働可能期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、年五分の中間利息の控除につきホフマン方式を用いて死亡当時における亡一男の逸失利益の現価額を算定すれば、次のとおり一五一二万三六〇〇円となる。

(算式)

15万円×12×(1−0.5)×16.804

=1512万3600円

(三)  亡中島利雄

〈証拠〉によれば、亡中島利雄は、昭和一四年一月八日生まれで、本件事故による死亡当時は父である中島友栄の経営する新潟日報社の社員食堂で働く満三九歳の健康な男子であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの二八年間は稼働しえたものと推認される。そして〈証拠〉によれば、亡利雄は本件事故による死亡当時給料として月額一三万円、賞与年間二〇万円の収入を得ていたものと認められ、これを基礎として右稼働可能期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、年五分の中間利息の控除につきホフマン方式を用いて死亡当時における亡利雄の逸失利益の現価額を算定すれば、次のとおり一五一五万四四八〇円となる。

(算式)

(13万円×12+20万円)×(1−0.5)×17.221=1515万4480円

(四)  亡松井ヨシ子

〈証拠〉によれば、亡松井ヨシ子は、昭和二七年四月二五日生まれで、本件事故による死亡当時はクラブ真珠苑にホステスとして勤務する満二五歳の健康な女子であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの四二年間は稼働しえたものと推認される。そして〈証拠〉によれば、亡ヨシ子が真珠苑から支払われていた給料(差引支給額)は、昭和五二年六月が二六万二八五〇円、同年七月が三〇万〇一二五円、同年八月が二八万七一〇七円、同年九月が三二万五二三〇円、同年一〇月が三一万九九六一円、同年一二月が三〇万三一四七円、昭和五三年一月が二八万七七七〇円、同年三月が二四万二五一五円であると認められるので、(被告歌代との関係では亡ヨシ子がホステスとして勤務し、右の月収金額を得ていたことは当事者間に争いがない。)、本件事故による死亡当時年間三四九万三〇五七円の収入を得ていたものと推認されるが、このような高収入を得るためにはホステスという職業柄、衣裳代や化粧代等の必要経費として収入の三割程度の支出を要することは顕著な事実であるからこれを控除した年間の純収入は二四四万五一四〇円であると認められる。そしてホステスという職業は、その特殊性からして一般に稼働可能期間は短かく満四〇歳までこの職を継続しえてその間本件事故前と同水準の収入をあげることができ、その後満四一歳から満六七歳までの二七年間は当裁判所に顕著な昭和五二年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額(含臨時給与)を1.059倍したものをもとに作成した満四一歳の女子労働者の平均給与額(平均月額)一三万六一〇〇円の収入を得ることができたものと推認され、これらを基礎として右各稼働期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、年五分の中間利息の控除につきホフマン方式を用いて死亡当時における亡ヨシ子の逸失利益の現価額を算定すれば、次のとおり二二六六万二四三一円となる。

(算式)

40歳まで

年間純収入=(26万2850円

+30万0125円+28万7107円

+32万5230円+31万9961円

+30万3147円+28万7770円

+24万2515円)÷8×12

×(1−0.3)=244万5140円

逸失利益=244万5140円

×(1−0.5)×10.981

=1342万5052円

41歳から67歳までの逸失利益

13万6100円×12×(1−0.5)

×(22.293−10.981)

=923万7379円

(五)  亡和田吉弘

〈証拠〉によれば、亡和田吉弘は、昭和二八年一月一一日生まれで、本件事故による死亡当時は日本国有鉄道の東新潟機関区で検修係として勤務する満二五歳の健康な男子であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの四二年間は稼働しえたものと推認される。そして〈証拠〉によれば、亡吉弘は本件事故による死亡当時日本国有鉄道から俸給として月九万二二〇〇円、ボーナスとして俸給の五か月分の年額四六万一〇〇〇円の収入を得ていたものと認められ(〈証拠〉によれば、亡吉弘は高校卒業後東映ボールに勤務し、その後日本国有鉄道に勤務したが、勤めはじめてからさほどの年月を過ぎていないことが認められるので昇給や退職金・年金は考慮しない。)、これを基礎として右稼働可能期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、年五分の中間利息の控除につきホフマン方式を用いて死亡当時における亡吉弘の逸失利益の現価額を算定すれば、次のとおり一七四七万一〇二四円となる。

(算式)

(9万2200円×12+46万1000円)

×(1−0.5)×22.293

=1747万1024円

(六)  亡佐々木恵一

〈証拠〉によれば、亡佐々木恵一は、昭和三四年一一月一七日生まれで、本件事故による死亡当時はエルアドロで調理見習店員として勤務する満一八歳の健康な男子であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの四九年間は稼働しえたものと推認される。ところで亡恵一が死亡当時においてエルアドロから支払を受けていた給料額はこれを認めるに足りる証拠がないので(亡恵一の月収は一三万円である旨の原告本人佐々木ヤス子の供述部分はたやすく措信できない。)、当裁判所に顕著な昭和五二年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額(含臨時給与)を1.059倍したものをもとに作成した満一八歳の男子労働者の平均給与額(平均月額)一〇万五三〇〇円の収入を得ることができたものと推認でき、これを基礎として右稼働可能期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、年五分の中間利息の控除につきホフマン方式を用いて死亡当時における亡恵一の逸失利益の現価額を算定すれば、次のとおり一五四二万六〇二八円となる。

(算式)

10万5300円×12×(1−0.5)

×24.416=1542万6028円

(七)  亡畠山春久

〈証拠〉によれば、亡畠山春久は、昭和三〇年五月一六日生まれで、本件事故による死亡当時はエルアドロに勤務する満二二歳の健康な男子であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの四五年間は稼働しえたものと推認される、ところで〈証拠〉によれば、亡春久は昭和五三年三月からエルアドロに勤務しはじめたが、同年二月まではクラブ真珠苑に勤務し、基本給として月額一一万円の収入を得ていたものと認められ、これを基礎として右稼働可能期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、年五分の中間利息の控除につきホフマン方式を用いて死亡当時における亡春久の逸失利益の現価額を算定すれば、次のとおり一五三三万二四二六〇円となる。

(算式)

11万円×12×(1−0.5)×23.231

=1533万2460円

(八)  亡柴田恵美子

〈証拠〉によれば、亡柴田恵美子は、昭和二一年一月一八日生まれで、本件事故による死亡当時はクラブ真珠苑にホステスとして勤務する満三二歳の健康な女子であつたことが認められるので(被告歌代との関係では亡恵美子がホステスとして勤務していたことは当事者間に争いがない。)、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの三五年間は稼働しえたものと推認される。ところで亡恵美子が死亡当時得ていた収入の額は、これを認めるに足りる証拠がないので当裁判所に顕著な昭和五二年賃金センサス第一巻第一表の職業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額(含臨時給与)を1.059倍したものをもとに作成した満三二歳の女子労働者の平均給与額(平均月額)一四万六五〇〇円の収入を得ることができたものと推認され、これを基礎として右稼働可能期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、年五分の中間利息の控除につきホフマン方式を用いて死亡当時における亡恵美子の逸失利益の現価額を算定すれば、次のとおり一七五〇万七〇四三円となる。

(算式)

14万6500円×12×(1−0.5)

×19.917=1750万7043円

(九)  亡上野知恵子

〈証拠〉によれば、亡上野知恵子は、昭和二三年三月二二日生まれで、本件事故による死亡当時はホステスとして働く満二九歳の健康な女子であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの三八年間は稼働しえたものと推認される。ところで亡知恵子が死亡当時得ていた収入の額は、これを認めるに足りる証拠がないので、当裁判所に顕著な昭和五二年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額(含臨時給与)を1.059倍したものをもとに作成した満二九歳の女子労働者の平均給与額(平均月額)一四万七九〇〇円の収入を得ることができたものと推認され、これを基礎として右稼働可能期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、年五分の中間利息の控除につきホフマン方式を用いて死亡当時における亡知恵子の逸失利益の現価額を算定すれば、次のとおり一八六〇万八七七八円となる。

(算式)

14万7900円×12×(1−0.5)

×20.970=1860万8778円

2  慰謝料

前記認定の諸事実によれば、本件各被害者らが本件火災事故により死亡するに至るまでの間、多大な精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推認されるところであり、その他本件訴訟に現われた諸般の事情を考慮すれば、慰謝料は各被害者につき各七〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用

〈証拠〉によれば、本件火災事故による死亡に伴い本件各被害者らについては、それぞれ通常の葬儀費用として少なくとも六〇万円を要するものと認められる。

4  亡畠山春久に関する過失相殺

前記一3の認定事実によれば、亡畠山春久は本件火災発生に気付いたとき、エルアドロの店長佐藤孝にその旨を知らせたが、店内の客らに対し、火災発生を知らせ、避難・誘導をすることもなく、エルアドロ内において死亡したことが認められることからして、亡春久は本件火災発生を知つたのちも漫然とエルアドロ内にとどまつていたものと推認されるので、亡春久には過失があつたものということができ、過失相殺の割合は三割と解するのが相当である。

5  相続関係

(一)  亡橋本フサエ

〈証拠〉によれば、原告橋本留吉、同橋本ミテは、亡橋本フサエの養父母であり、原告廣川ツルは、亡フサエの実母であつて、廣川新一郎は、亡フサエの実父であつたが、同人は昭和五六年四月二二日死亡し、同人の妻の原告廣川ツル、子の原告廣川登、同廣川新次が同人を相続したことが認められるから、法定相続分に応じ亡フサエの前記1ないし3の損害額合計二七九五万七四五三円の損害賠償請求権を、原告橋本留吉、同橋本ミテがそれぞれ、その四分の一にあたる六九八万九三六三円、原告廣川ツルが八分の三にあたる一〇四八万四〇四四円、原告廣川登、同廣川新次がそれぞれ、その一六分の一にあたる一七四万七三四〇円宛相続した。

(二)  亡織田一男

〈証拠〉によれば、原告織田貞次郎は、亡繊田一男の養父であることが認められるが、これとともに亡一男には実母の星山ミヨノがいることも認められ、亡一男の死亡した昭和五三年三月一〇日以前に右星山ミヨノが死亡していたことを認めるに足りる証拠がないので、亡一男の法定相続人は養父の原告織田貞次郎と実母の星山ミヨノの二人であるといわざるをえず、したがつて原告織田貞次郎は法定相続分に応じて、亡一男の前記1ないし3の損害額合計二二七二万三六〇〇円の損害賠償請求権の二分の一にあたる一一三六万一八〇〇円宛相続した。

(三)  亡中島利雄

〈証拠〉によれば、原告中島貞子は亡中島利雄の妻であり、原告中島裕子、同中島以津子、同中島一は亡利雄の子であることが認められるから、法定相続分に応じ、亡利雄の前記1ないし3の損害額合計二二七五万四四八〇円の損害賠償請求権を原告中島貞子はその三分の一にあたる七五八万四八二六円、原告中島裕子、同中島以津子、同中島一はそれぞれ、その九分の二にあたる五〇五万六五五一円宛相続した。

(四)  亡松井ヨシ子

〈証拠〉によれば、原告松井信吾は亡松井ヨシ子の夫であり、原告長谷川キノイは亡ヨシ子の実母で、長谷川清七が亡ヨシ子の実父であることが認められるから、法定相続分に応じ、亡ヨシ子の前記1ないし3の損害額合計三〇二六万二四三一円の損害賠償請求権を、原告松井信吾はその二分の一にあたる一五一三万一二一五円、原告長谷川キノイはその四分の一にあたる七五六万五六〇七円宛相続した。

(五)  亡和田吉弘

〈証拠〉によれば、原告和田庄吾、同和田チヨノは亡和田吉弘の実父母であることが認められるから、法定相続分に応じ、亡吉弘の前記1ないし3の損害額合計二五〇七万一〇二四円の損害賠償請求権を、原告和田庄吾、同和田チヨノはそれぞれ、その二分の一にあたる一二五三万五五一二円宛相続した。

(六)  亡佐々木恵一

〈証拠〉によれば、原告佐々木又雄、同佐々木ヤス子が亡佐々木恵一の養父母であるほか、柿原代美枝が亡恵一の実母であることが認められるから、法定相続分に応じ亡恵一の前記1ないし3の損害額合計二三〇二万六〇二八円の損害賠償請求権を、原告佐々木又雄、同佐々木ヤス子はそれぞれ、その三分の一にあたる七六七万五三四二円宛相続した。

(七)  亡畠山春久

〈証拠〉によれば、原告畠山久平、同畠山ミヨシは亡畠山春久の実父母であることが認められるから、法定相続分に応じ、亡春久の前記1ないし3の損害額合計二二九三万二四六〇円から前記4の過失相殺として三割を控除した一六〇五万二七二二円の損害賠償請求権を、原告畠山久平、同畠山ミヨシはそれぞれ、その二分の一にあたる八〇二万六三六一円宛相続した。

(八)  亡柴田恵美子

〈証拠〉によれば、原告柴田崇は亡柴田恵美子の子であることが認められるから、亡恵美子の前記1ないし3の損害賠償額合計二五一〇万七〇四三円の損害賠償請求権を単独相続した。

(九)  亡上野知恵子

〈証拠〉によれば、原告上野仁は亡上野知恵子の子であることが認められるから、亡知恵子の前記1ないし3の損害額合計二六二〇万八七七八円の損害賠償請求権を単独相続した。

6  原告畠山ミヨシ、同佐々木又雄、同佐々木ヤス子の損害填補

原告畠山ミヨシが亡畠山春久の死亡による労災保険の遺族補償一時金及び遺族特別支給金として計四四八万三五五〇円の支給をうけ、原告佐々木又雄及び同佐々木ヤス子が亡佐々木恵一の死亡による労災保険の遺族補償一時金及び遺族特別支給金として計四五一万〇五五〇円の支給を受けたことは当事者間に争いがない。

7  原告織田トミ固有の慰謝料

〈証拠〉によれば、亡織田一男は昭和一二年四月二〇日に出生し、生後七か月半にあたる同年一二月三日原告織田貞次郎及びその妻織田キンの養子となつたこと、原告織田トミが原告織田貞次郎と婚姻したのは昭和三四年二月一七日であることが認められるが、右認定によると、原告織田トミが亡一男の養親にあたる原告織田貞次郎と婚姻した昭和三四年二月一七日当時、亡一男は満二一歳となつてすでに成人に達していたのであるから、他に原告織田トミと亡一男が特別に緊密な生活関係にあると認めるに足りる証拠のない本件においては、民法七一一条を類推適用して、亡一男の死亡について原告織田トミに固有の慰謝料請求を認めるのは相当でない。

8  弁護士費用

原告らが、本訴の提起、遂行を原告ら訴訟代理人らに委任したことは当裁判所に顕著であり、事案の内容、審理の経過、請求認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件死亡事故と相当因果関係にある弁護士費用損害金の額は、本件死亡事故発生日の現価に引直して原告橋本留吉、同橋本ミテにつき各七〇万円、原告廣川ツルにつき一〇五万円、原告廣川登、同廣川新次につき各一七万円、原告織田貞次郎につき一一四万円、原告中島貞子につき七六万円、原告中島裕子、同中島以津子、同中島一につき各五一万円、原告松井信吾につき一五一万円、原告長谷川キノイにつき七六万円、原告和田庄吾、同和田チヨノにつき各一二五万円、原告佐々木又雄、同佐々木ヤス子につき各五四万円、原告畠山久平につき八〇万円、原告畠山ミヨシにつき三五万円、原告柴田崇につき二五一万円、原告上野仁につき二六二万円と認めるのが相当である。

六結論

以上によると、原告らの本訴請求のうち、原告橋本留吉、同橋本ミテにつき各七六八万九三六三円、原告廣川ツルにつき一一五三万四〇四四円、原告廣川登、同廣川新次につき一九一万七三四〇円、原告織田貞次郎につき一二五〇万一八〇〇円、原告中島貞子につき八三四万四八二六円、原告中島裕子、同中島以津子、同中島一につき各五五万六五五一円、原告松井信吾につき一六五〇万円、原告長谷川キノイにつき八二五万円、原告和田庄吾、同和田チヨノにつき各一三七八万五五一二円、原告佐々木又雄、同佐々木ヤス子につき各五九六万〇〇六七円、原告畠山久平につき八八二万六三六一円、原告畠山ミヨシにつき三八九万二八一一円、原告柴田崇につき二七六一万七〇四三円、原告上野仁につき二八八二万八七七八円とこれに対する本件死亡事故の日である昭和五三年三月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各自支払を被告らに対して求める部分は理由があるからこれを認容し、原告松井信吾、同長谷川キノイ、同織田トミを除くその余の原告らのその余の請求及び原告織田トミの請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(柿沼久 清水信雄 石田浩二)

請求債権目録〈省略〉

別表第一ないし第五〈省略〉

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